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大阪地方裁判所 昭和36年(わ)611号 判決 1961年10月26日

被告人 近俊彰彦

昭一一・八・一三生 自動車運転者

主文

本件は管轄違。

理由

本件公訴事実は、被告人は自動車運転者であるが、法定の除外事由がないのに、昭和三五年八月一五日午前一〇時二〇分頃大阪市生野区鶴橋北之町二丁目大阪市バス鶴橋北之町停留所附近道路上において、高谷繁一を自己の運転する自家用小型四輪自動車(大五せ第〇六一九号)に有償目的で乗車させ同所より同市阿倍野区阿倍野筋一丁目一番地国鉄天王寺駅南口附近まで運転して同人より料金一四〇円を受領し、以つて自家用自動車を有償で運送の用に供したものである、というにある。

よつて判断するに、本件は刑事訴訟法第三三二条により簡易裁判所から当裁判所に移送せられたものであるが、同条による移送は受移送地方裁判所において当該事件につき事物管轄を有することを必要とするものと解すべきところ、本件につきこれをみるに、本件公訴事実は行為時法によれば昭和三五年法律第一四一号による改正前の道路運送法第一〇一条第一項第一三〇条第三号に、裁判時法(起訴時法を含む)によれば昭和三五年法律第一四一号による改正後の道路運送法第一〇一条第一項第一二八条の三第二号に該当し、行為時法によればその法定刑は三万円以下の罰金であり、裁判時法によればその法定刑は三月以下の懲役若しくは五万円以下の罰金又はこれを併科し得るのである。およそ犯罪後の法律に因り刑の変更ありたる場合は罪刑法定主義により行為時法の適用を原則とし、刑法第六条も軽い裁判時法の遡及を例外的に認めるに過ぎないものと解するを相当とし、本件についてはいずれにしても罰金刑を科し得るのみで、懲役刑を科し得ないのである。而して裁判所法第三三条、第二四条によれば罰金以下の刑にあたる罪の裁判権は簡易裁判所の専属管轄に属し、地方裁判所はこれにつき管轄権がないのである。

従つて当裁判所は本件公訴事実については管轄権なきものというべきであるから、刑事訴訟法第三二九条により管轄違の言渡をする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 秋山正雄)

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